Moon drops 『君が好き』より
              〜ルフィ生誕日記念DLF



もうすぐ連休が始まる。
今年は飛び石連休で、前半の3日間はゾロの剣道の試合を見に行く事になっていて。
連休後半の最終日は俺の誕生日で、ゾロが会いに来てくれる。

今年も一緒にお祝いしてくれるんだ。
プレゼントは当日まで内緒なんだって。

俺はゾロが来てくれるなら、プレゼントなんか無くたって良いんだけど。

ゾロと一緒に過ごせるなら―――何も要らない。
俺には、ゾロだけで良いから。


なのに―――



「なんでこうなるんだよぉ〜…」
「お前、選ばれといて何文句言ってんだ」
「せっかく連休の予定立ててたのに…」
「諦めろ」
「う゛〜…」


なんか知らないけど、強化練習の選抜選手に選ばれた俺は、連休の予定が全てパーになるという事態に陥ってしまった。
せっかくゾロに会いに行くつもりだったのに。
俺はもちろん、ゾロも楽しみにしててくれたのに。


そりゃ俺だって、陸上は本気で頑張ってるし、選抜選手に選ばれる事は名誉だし、嬉しいんだけど。
それでもやっぱり、会えると思ってたのに会えないとなると、余計会いたくなってしまう。

こんな俺は陸上選手失格だろうか。


「お前、ここで頭角現せとけば後々楽なんじゃねぇの?N大推薦狙ってんだろ?」
「う゛っ…そうだけど…」
「だったら、チンタラ文句言ってんじゃねぇよ。推薦狙ってるヤツは山ほどいるんだぞ」
「分かってるもん…」


サンジには泣き言は通用しない。
いつだって冷静に俺の間違いを正してくれる。
でも、それでも―――優しい言葉が欲しいと思うのは、俺が間違ってるんだろうか。


「ほら、サンジくん…ルフィが泣きそうになってるじゃない。少しは気持ちも汲んであげなさいよ」
「あ…いや、もちろん分かってますけど…」
「ルフィの誕生日にはゾロが来てくれるんでしょ?頑張ろう?ねっ?」
「うん…」


ナミに優しく頭を撫でられて、少しだけ気持ちが落ち着いた。
そうだよな…回数は減るけれど、全く会えなくなったワケじゃない。
ゾロは連休の後半にはこっちに帰って来るって言ってたし、その時にも会えるのだから。

俺が頑張らないとゾロが心配するしな…。


「でもガッカリだな〜…ずっと楽しみにしてたのに…」
「きっとゾロもガッカリするわね…遠距離恋愛は辛いわね…」
「うん…ナミは良いよな…サンジが近くにいるから…」
「ちょっと…っ、なんで私なのよ?私は別に…」
「焦らなくても知ってるもん」


微妙に顔を赤くしているサンジとナミに笑って手を振ると、そのまま店を後にした。
はっきりと付き合ってるワケじゃないみたいだけど、なんだかんだで何気なく傍に寄り添ってる。
俺にはそんな2人が羨ましかった。







「ゾロ…ガッカリするかなぁ…」


部屋に駆け上がってベットの上に転がると、ポケットから携帯を出した。
残念な気持ちを込めて、一字一字文字を打ち込んでいく。

【強化練習の選抜選手に選ばれて、連休パーになった。ゾロに会いに行けなくなっちゃった】


なんか涙が出そうになった。
文字にしちゃうと絶望感が更に増したような気がした。

送信ボタンを押してそっと小さく溜息をついたら、次の瞬間携帯の呼び出し音が鳴って驚いた。
画面にはゾロの名前…メールを受け取って、すぐに電話を掛けてくれたらしい。


「もしもし…ゾロ?」
「ルフィ…悪りぃ」
「え…?」


なんでゾロが謝んの?


「何が…?」
「そっち行けなくなっちまった…悪りぃ」
「え…?」


行けなくなったって…それは俺の台詞で…


「なんで?ゾロもダメになったのか!?」
「あぁ…」
「なんで?予定入ってないって…」
「競技会の本選がズレちまって…5日が最終日なんだ」
「それって…」


元々予定されていた会場の補修工事の遅れが元で会場の変更があったとか、急な変更で大会のスケジュールがずれたとか、ゾロはいっぱい説明してくれたけど俺の耳には入らなくて…ただ黙って聞いていた。
僅かの望みが呆気なく崩れて、呆然とするしかなかった。


「予選で負けりゃ…そっち行けるけど…」
「ダメっ!!」
「ルフィ…」
「そんなのダメだからな!優勝しなきゃ許さないんだからな!」


会いたいけど、そんな事で会えたって嬉しくないから。
ゾロには頑張ってもらいたいから。
俺の為だって言うんなら、尚更そんな事は許せない。


「俺、頑張るって言ったじゃん…なんでそんな事言うんだよー…」
「悪りぃ…」
「俺だって、会いたいんだぞ…でも…そんな事してたら、ゾロも俺も弱くなっちゃうじゃん」
「………・・」
「俺…そんなのヤダ…」


弱音吐いちゃう事もあるけど、それでも頑張るって決めたから。
離れても大丈夫だって思い込んでないと、どんどん弱くなっちゃうような気がして。

あぁ―――今、ゾロにぎゅってしてもらいたいな。
息が出来ないほど、強く強く。
そしたらこんな弱気な俺なんか、どっかいっちゃうのに。


「今―――傍にいたら、抱きしめてやれるのにな…」
「ゾロ…」
「いや、“抱きしめてやれる”じゃないな、“抱きしめられる”だ」
「う゛っ…」
「俺も会いたかった…こんなにガッカリしたのは初めてだ」
「もぉ…バカ」


ゾロの切なそうな声で、どれほど俺の事を想ってくれてるかが分かったような気がして、泣きそうになったところをちょっと救われた

会いたいと思ってるのは俺だけじゃない。
少なくともゾロも同じ気持ちでいてくれるのだから。


「二度と会えないワケじゃないし…俺、次の土日に会いに行く」
「あ、次の土日は俺が帰る。しばらく講義が休みになるし、元々そのつもりだったから」
「ゾロん家行っても良いか?」
「あぁ、何なら泊まりに来い。親父やお袋も待ってるから」
「うん」


離れていると不安な気持ちばかりが湧き上がってきて、泣きたくなる事もいっぱいある。
でも…あまり口の立たないゾロが、事ある毎に想いを口に出してくれるようになった。
きっとゾロも不安になるんだと思う…俺の事を信じてないからじゃなく、好きでいてくれるから。

自分の不安も寂しさも全部、俺の想いと一緒にその身の内に閉じ込めて。

―――ゾロは俺なんかよりずっと強い。


「俺も負けないからな」
「お前は強化練習だろ?何かあるのか?」
「ゾロに負けないって言ってんの」
「俺…?」
「ゾロ…絶対優勝して…俺に会いに来て、な?」
「おう…全部一本勝ちだ」


電話を切れば、また離れ離れの日常に戻る。
でも今は、さっきまでの寂しい気持ちはなく、それ以上気持ちが近付いてるような気がした。



離れても、ゾロと気持ちが繋がっている限り、心はいつも傍にあるから。




それからの数日間は早かった。
練習中は走る事だけを考えて、ただ無心に走った。
余分な事を考えない分、迷う事もなかったし、悩む事も無かった。

本当ならゾロにも祝ってもらうはずだった誕生日当日も、不思議と寂しいとは思わなかった。
そりゃ本当の事を言えば、一緒に祝ってもらいたかったけど…来れないって事は、ゾロが頑張ってるって証拠だから。




「それにしても…ゾロが来れなかったの、残念だったわね…」
「うん…でも、この土日には会えるから」
「お前、楽しみにしてたのにな…」
「先輩、結局優勝したんですか?」
「ん〜…メールが返って来ないトコ見ると…多分優勝してる」
「そうだな、優勝してたら祝勝会とかやってるだろうし…」


ふっきれてる俺とは対照的に、サンジやナミ、ビビ、ウソップは気の毒そうな顔をするばかりで。
あんまり気の毒そうな顔されても…逆に辛いというか、かえってみんなに悪いというか。


「もぉ〜…みんな、そんな顔すんなよ!俺は大丈夫だから」


そう―――この土日には会えるんだし、それまでの辛抱だから。


「明日は学校だし、お開きにしようぜ!遅くなったし」
「ん…そうね、そうしましょうか」
「じゃあ、私はこれで…。ルフィさん、明日学校で」
「おう!ナミもビビもウソップも、ありがとな」


ナミとビビとウソップに手を振って見送って、サンジにも礼を言って表へ出た。

昼間は夏のような気温になってはいるけれど、夜風はまだ少し冷たくて、気持ち良い。
サンジには“早く寝ろ”って言われたけど、少し歩いてみたくて公園の方まで足を延ばす事にした。

なんだか、このまま眠れそうも無かったから。


今日は最終日で、昨日までのメールには“勝ち進んでる”って返事が来ていた。
今日送ったメールの返事が無いところを考えると、きっと優勝したに違いない。

試合が終わって、祝勝会やって…ゆっくりする間もない事だろう―――疲れてなければ良いけれど。


ぎゅっと携帯を握り締めて、公園の遊歩道を歩く。
真っ暗な空には僅かな星が瞬く程度で、しんと静まり返った空気に思わず身を縮める。


「11時か…土曜日まで、あと25時間で…あれ?」


ふと、聴き憶えのある音が聴こえたような気がして、足を止めた。
微かに聴こえたその音は、どんどんこちらへ近付いてくるようで…


「これって…もしかして」


“まさか”という思いと反比例するように、期待にドキドキと高鳴る胸を押さえて、慌てて車道へと目を向けた。
やがて角を曲がってくるヘッドライトが見えて、その期待は確信へと姿を変えた。

聴き憶えのあるバイクのエンジン音、見慣れたバイク―――それと


「ゾロ!?」
「っ!」


俺はそう叫ぶと、そのまま目の前で急停車したバイク目がけて飛びついた。


「お前…こんなトコでどうしたんだ…?」
「それはこっちの台詞だ!どうしたんだ?なんでこんなトコに…」


それは紛れも無く、会いたくて会いたくて仕方なかったはずの…それと同時にここにいるはずのない人物で―――

ゾロは、呆然とする俺の顔を呆然と見た後、小さく笑って俺をぎゅっと抱きしめた。
強く抱きしめられた懐からは大好きなゾロの匂いと、ドキドキといつもより早い鼓動が聴こえた。


「ゾロ…どうしたんだ…?今日は試合だって…」
「あぁ、優勝した」
「でもっ…じゃあ、なんでここに…」
「誕生日おめでとう」
「………・」
「どうしても今日中に言いたくて…祝勝会の途中で抜けてきたんだ」


そう言って、更にぎゅっと抱きしめられて…俺も負けずにぎゅっとしがみ付いた。
おでこに頬に唇が触れるたび、初めてじゃないのにドキドキと心臓の音が煩くて、嬉しくて恥ずかしくてどうにかなってしまいそうになる。

やがて、ゾロの唇が俺の唇に辿り着いた頃には、身体から力が抜け、ゾロに抱えられている状態だった。


「ありがと、ゾロ…好き」
「ルフィ……あっ」
「んん?」


慌てたような声が上がったのに驚いて顔を上げると、ゾロはなんとも申し訳なさそうな、決まりの悪そうな顔をしていた。


「どうかしたのか?」
「用意しといたプレゼント…持って来るの忘れた…」
「へ?」
「悪りぃ…荷物も何もかも人に押し付けて来ちまったから…」


とにかく大急ぎで防具や竹刀などの荷物を丸ごと人に預けて飛んできたらしい。
俺を想って俺の事だけを考えて、一目散に会いに来てくれたのかと思うと、ただ嬉しくて。


「俺、ゾロがいれば何も要らない…」
「ルフィ…」
「俺、すごいプレゼント貰ったぞ」
「え?」


ゾロの背中に回した手に力を込めて、思いきりぎゅっと抱きついて少しだけ背伸びすると、自分からそっと口付けた。


「ゾロが来てくれただけで良い…俺のゾロだ」
「そっか…」


それからしばらく2人は黙って抱き合ってた。


月の明るい夜じゃなくて良かった。






「お前、明日学校だろ?」
「うん…ゾロは?ゾロも学校だろ?まさか今から戻るのか?」
「いや、重要な講義は無いし…実家に帰る。明日、学校の前まで迎えに行く」
「うん?」
「明日から泊まりに来いよ…ちょっとは長く一緒にいられるだろ?」
「うん!」


一緒にいることがこんなにも幸せで…きっと俺達は、いつまで経っても離れ離れに慣れないのかもしれない。
慣れる必要も無いのかもしれないけれど。


“俺、今夜眠れないかも…”


「だめだ…俺、今晩寝られねぇかも…」
「ししし。俺も」


真っ暗な空の下、また2人の影が1つになった。




すいません…何とか当日までには間に合いました…!(遅っ)
ゲロ甘万歳なショボくれ文ですが、よろしければお持ち帰りくださいませ…(ヨロヨロ;)

2005.05.04up


*kinako様のサイト『heart to heart』さんが、
 パラレルものとして展開なさってらっしゃるお話です。
 そうそう、ゾロが大学へ進学しちゃったんですよね。
 でもでも、関係なくラブラブな二人でしたが、
 スポーツイベントに阻まれるとは、何とも彼ららしい顛末で。
 どうなることかハラハラさせて、でも、
 嬉しい結末に、こちらもにっこしですvv
 可愛いお話をありがとうございますvv
 大切に読ませていただきますね?
 ではではvv

kinako様のサイト『heart to heart』さんはこちら→**


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